法学って賢い人が専攻する分野と思って敬遠してましたが、 必修なので受けるしかありません。 先生は細身の山登りが好きそうなファッションのマダムで、 パワポなし、シラバスはあったんですが、 先生の話があっちこっち飛んでしまってシラバス通りに進んでいる のかついていけませんでした。 おそらくパソコンが苦手な先生なのでしょう、 ピラミッド型になるベルギーの裁判所の表は、 スペースをつかってレイアウトをしていたため、 印刷したものが崩れていて理解しにくかったです。
大教室での授業以外に、弁護士が講師(monitorat)となってベルギーの裁判制度と判例の読み方について習いました。モロッコ系の物静かな男性で講師にしては年上だったのですが、トラムの運転手から猛勉強して弁護士になったとおばさん教授が言ってました。
どちらの授業でも、法学以外の学生向けの六法"Code BAC - Economie / Gestion / Science humaines"が必要です。六法には線を引いてもいいけど書き込み不可で試験の時持ち込みます。
それから、裁判制度を知るためにベルギー政府が2011年に作成したパンフレット「La justice en Belgique(ベルギーの司法制度)」を見つけ、コンパクトに説明されていてとても役に立ちました。
試験は、ベルギー憲法に基づく行政・裁判制度、法律とはという概論的な問題と、判例の概要の記述式問題で構成されていました。
試験の初戦は語彙・ベルギー事情の知識不足と判例の問題が複雑でわかりにくく、ダメでした。
2戦目の判例は同性婚をしているベルギー在住フランス人男性カップルの裁判についてです。カップルの男性Aと代理母の間でアメリカで子供を設け、代理母は親権放棄している状態で、カップルの(生物学的父ではない)男性Bが法的に父親となるため裁判を起こしたという内容でした。このカップルはフランス人なのでフランスの裁判所で審議されるのが一義的ですが、フランスではまだ法体制が整っておらず、合法的に居住するベルギーで裁判を起こしました。男性カップルの間ではどうしても一方の男性は生物学的父親になれないけど、結婚したカップル双方の権利としてベルギーなら男性Bにも法的な父親は与えなきゃ不平等になるなと想像ついたので書きやすかったです。
ここからは、法学で習った中でベルギー独特と思われる制度を3つ紹介します。日本語の法学用語は素人なので間違っているかもしれませんので悪しからず。
ベルギー刑法での「犯罪」の種類
どの裁判所で初審を行うかについて、別の表現だと軽いか重いかという点での犯罪の種別についてです。
- infraction 「犯罪」の総称。区別は以下の3つある。
- contravention 交通違反の罰金や器物損壊など。7日以下の収監、20~45時間の強制労働、25ユーロに規定された付加率(décimes additionnels)を掛け算した額までの罰金刑。ただし、軽犯罪délitに相当する刑でも軽減されるとdélit contraventionnaliséと見なされcontraventionの裁判過程に則って裁判される。
- délit 窃盗などの軽犯罪。8日以上5年までの収監、46~300時間の強制労働、26ユーロに規定された付加率を掛けた額以上の罰金刑。ただし、重罪crimeに相当する刑でも軽減されるとcrime correctionnaliséと見なされ軽犯罪の裁判過程に則って裁判される。
- crime 殺人などの重罪。5年以上の収監、26ユーロに規定された付加率を掛けた額以上の罰金刑。La cour d'assisesで陪審員によって評決される。
ベルギーのいろんな政府議会が承認したいろんな「法律」
ベルギーが連邦制になってから各政府によって作られた「○○
法」という時の「法」という単語に違いがあります。私の持っている仏和辞書には載っていないので書いておきます。
ベルギー法体系のピラミッドは、トップが憲法、二番手にloi spéciale、三番手にloi、le décret、l'ordonnanceが対等な関係を持ち、四番手にrèglementという形になります。
- La constitution ベルギー憲法(条文はベルギー上院のサイトにリンク)
- La loi spéciale ベルギー連邦政府の代議院及び上院各々で2/3以上の賛成かつ各議院のオランダ語圏及びフランス語圏議員の過半数によって承認された法律
- La loi ベルギー連邦政府の代議院(特定案件については加え上院)の過半数で承認された法律
- Le décret フランドル政府議会(=フランドル地域政府とオランダ語共同体政府の合併した政府)、フランス語共同大政府議会、ワロン地域政府議会、ドイツ語共同体政府議会、ブリュッセルのフランス語共同議会が議決した法律。
- L'ordonnance ブリュッセル首都圏地域政府議会がが承認した法律。
- Le règlement 州議会、市町村議会が承認した規則(日本の自治体の条例のような扱い)
ベルギーの裁判制度
日本でいう最高裁判所・高等裁判所・地方裁判所とはちょっと違うピラミッド型のようです。
ベルギー裁判所の種類についてピラミッドでいう下のほうから紹介します。
一番下の裁判所(les tribunaux)
- le juge de paix 治安判事。1860ユーロ以下の民事関連。アパートのトラブルなど。
- le tribunal de police 罰金刑(contravention)となる刑法関連。交通違反も担当。
下から2番目の裁判所(les tribunaux)
- Le tribunal de première instance 第一審裁判所。1860ユーロより大きい額の民事裁判、8日以上5年未満の犯罪、少年犯罪、家族関係の初審。le juge de paixとle tribunal de policeの二審。
- le tribunal de commerce 商事裁判所。1860ユーロより大きい額の民事裁判の初審、治安判事で扱った商事裁判の二審。
- le tribunal du travail 労働裁判所。
下から3番目の裁判所(les cours)
- la cour d'appel 控訴院。第一審裁判所や商務裁判所の控訴審。
- la cour du travail 労働法院(と訳したらいいのかな?)。労働裁判所の控訴審。
- la cours d'assises 重罪院。重罪(crime)扱いの初審で、陪審員により有罪か無罪が審議される。なお、軽罪化された重罪の初審は下から2番目の裁判所にて初審が審議され、重罪院で審議されるのは懲役20年以上に相当する犯罪のみ。軽罪化するのは、裁判予算の軽減のため
下から4番目の裁判所(La cour de cassation)
- La cour de cassation 破棄院。裁判所の裁判所として、判決内容ではなく裁判官による裁判過程が法に基づき適切に行われたかを審議する。第三審という役割ではない。破棄院で審議の破棄と判断が下されると、直前の裁判所に事案を差し戻して別の裁判官メンバーによって裁判をし直す。
下から5番目の裁判所(ベルギーでの一番上に位置する裁判所、ただし他の4階層の裁判所とちょっと意味合いが違う)
- la cour constitutionnelle 憲法裁判所。憲法が規定している連邦政府の法律(loi)、ブリュッセル首都圏地域政府の法律(ordonnance)、ブリュッセル首都圏地域政府以外の地域政府・共同体政府の法律(décret)の間に発生する各政府の役割分担に関する紛争を審議する。1980年にCour d'arbitrageとして創設され、2007年に憲法裁判所と名称変更された。憲法裁判所については、駒澤大学奥村公輔准教授の「ベルギー憲法裁判所の制度と概要」で詳述されています。