ワッフル工場火災の「ニオイ」から各国の報道ぶりを考える

 11月23日の13時頃、ブリュッセル南西にあるワッフル製造工場から火災が発生し全焼した事件がありました。私がいた場所は風向きが違ったためかあまりにおいはせず、煙にも気付きませんでしたが、子供は学校から煙が見えたと言ってました。

 このニュースは日本でも配信されましたが、私は工場火災の「におい」の報じ方に疑問を持ち始めました。なので今回は、この火災記事が日本語、英語、フランス語でどのように報じられたのかを、事故発生現場から遠い順で書いてみます。

日本の報道

まず見出しを見てびっくりしたのが、テレビ朝日です。
工場火災で建物が焼けて黒煙が出ているという状況を映像で紹介し、市長が住民に窓を閉めるよう呼びかけているという状況である報道なのに、「匂い拡散」という漢字を用いています。ニュースを読み上げるときには「匂い」「臭い」「におい」「ニオイ」はいずれも同じ読み方ですが、工場という建物火災で「匂い」っていう漢字をあてがったのに疑問を持ちました。ニュース原稿を書いた人は対岸よりも遠い国の首都での映像映えする火事で、おやじギャグでもを入れながら楽しいニュースにしたかったのかもしれませんね。


新聞記事については、多くが共同通信社からの配信記事を使い、見出しを少しずつ変えていました。
見出しを一生懸命いじって、いかに読んでもらおうかという努力がにじみ出ています。「ワッフル」と嗅覚的に中立的なひらがなの「におい」というキーワードから、読者に対してはワッフルの香ばしい(ちょっと焦げた)においを想像させながら、交通機関の遅れなど日常生活に影響が出たことを報じたかったように感じます。
 また、「欧州メディアは「極めてベルギーらしい出来事」だと報じた」とありますが、その意味が謎です。ベルギーらしさとはワッフルだからなのでしょうか。日本で鉄道沿線付近のせんべい工場火災があれば、日本らしい出来事になるのでしょうか。それとも、ブリュッセルの交通渋滞や交通機関の遅延・ストップが頻繁にあることを指しているのでしょうか。ブリュッセルはEUの拠点で首脳会議やデモがあればすぐに道路が閉鎖され、時には鉄道駅も閉鎖します。そんなことをベルギーらしさに伝えているのでしょうか。


 日本語で共同通信社の配信記事とは違う内容を書いているのがJ-CASTニュースです。

 この記事は「ニオイ」という表現を使っています。 「BBCやロイター通信などの欧米メディアが同日、報じた。」との記述から、これらの記事をベースに独自に作成したのかもしれません。
 一つ間違えているのは、「ブリュッセル市長」が煙を吸わないよう市民に呼びかけたという点です。市民に呼びかけたのは、ベルギーフランス語でいう「コミューン(Commune)」という自治体単位で、工場の立地するフランス語でForest(フォレ)、オランダ語でVorstというコミューンの長が呼びかけました。

 日本の報道のされ方は、「対岸の火事」であり、ベルギーといえばワッフルという関連があったので取り上げられたような印象を持ちました。

英語の報道

上に挙げたJ-CASTニュースの記事あった、欧米メディアについて、検索をかけてみました。

J-CASTニュースで間違えていたブリュッセル市長という表現がBBCでなされていました。
 ロイターの記事は、見出しがジョーク交じりな印象があります。


フランスの報道

見出しを訳せば、「映像 有害物質の危険:火災でブリュッセルの工場に大被害」です。ブリュッセルに住むフランス人はたくさんいますので、日本のようなユーモア、おやじギャグ的な見出しではなく、脅威にさらされているというような印象を与えます。
 記事本文の最初の部分で、「住民は家の中に避難するように」と呼び掛けていることから、記事を通じて在留フランス人に注意喚起を促しているようです。対岸に同胞がいる火事というイメージですね。


ベルギーのフランス語での報道


 まず、Le Soir紙は、「Foreat地区で大きな火災発生中:住民は自宅に避難を奨励(ビデオ)」という緊迫する見出しをつけた第一報をビデオやツイッターを使いながら報じています。記事掲載時刻が火災発生日の13:23となっていましたので、とにかく急いで集めているというのがわかります。
 Le Soir紙の概要です。
 
Milcamps工場での火災で負傷者はいない。屋根が延焼し黒煙が数km先まで見え、Foreat地区全域に蔓延している。Foreat地区の首長が区民に自宅内に避難するよう、通行中の車はエアコンの風を切るように呼びかけた。工場のオープンの冷却システムから出火した とみられている。緊急事態は現時点ではなされていないが、近隣の小学校1校の児童や企業が避難した。


 そしてDH紙は、翌24日朝7時、つまり鎮火し十分に記事を作成する時間を経た後の記事になります。見出しは「Milcamps社ワッフル工場が火災被害:証言」というものです。
 DH紙は、Le Soir紙の事実関係の報道にの構成にそれぞれ証言を追加したような形の記事でした。特徴ある点のみ紹介します。

 警察は通行人に刺激性のある煙から身を守る場所に向かうよう呼びかけた。「何も見ていないんだけど、注意しろと警告する電話を受けてびっくりした。自分の店から出てみると、分厚い煙が見えた。すごかった」と地域の店で働く人が証言した。
「息子を迎えに来た。友達とUccle Sport(隣の地区のスポーツセンター)に移動したと誰か が言った。探しているんだけど、それ以上の情報がないんだよ。」と子供の父親が話した。
 警察からの非難要求の中でも、建物内で働くひともいた。近隣の工場経営者「みんな帰宅するようにさせたよ。でも私はどうなってもいいや。どっちにしてもこの地域はいつもワッフルのにおいがしていたけど、今回は違ったね。」
 自治体・州レベルの災害計画が始動した。火災現場に隣接する区域を除き、室内待機指示は16時頃に解除された。
 DH紙は「 ワッフルとは 違うにおい」という証言を記事にしています。しかし、新聞記事の原稿締め切りという制限があるため、日本にはベルギーで報じられた内容とは違った形で知られることになりました。

まとめ

 事件との距離と報道のされ方の違いに気づいていただけたでしょうか。
私がブリュッセルに住んでいるために日本の報道のされ方に違和感を持ったのかもしれませんが、火事の現場で「匂い」って、これ、学校の試験で出たらバツになる可能性高いのではないでしょうか。

また、日本で報道される外国の事情は、日本人が考えるその国のステレオタイプに合う内容にしようと狙って書かれることがあります。他の言語、他の記者の書きぶり、その地元での報道ぶりをクロスさせて、複数の見方で一つの事件を浮きただせるのが大事だなと思いました。