子供の共同親権について(ひとり自由研究)

少し古いのですが、2016年9月13日付La Libre Belgique紙「両親の離別:子の監護のベストな形 Séparation des parents: voici "la meilleure formule" de garde」という記事を見つけました。日本では、離婚において単独親権制度を採用していますが、共同親権を支持する政党もあります。家族の在り方について、ベルギーと日本とを比べて違う点、そして共通点を紹介して、共同親権となればどんなことが起きるのかを考えてみたいと思います。

記事はこんな感じです。

 離別両親を持つ子をそれぞれの親が平等に宿泊させるというベルギーでの子の監護法改正から10年が経った。同法は別れたそれぞれの親と過ごす時間を最大限にするため、対等な日数で別れた父親と母親の家に交互に子が行きかう制度。
 この法制度で実際の家族の在りかたにインパクトを与えている。リエージュ大学の5年前の調査では、2006年の法改正前には簡単にこの権利を獲得しにくかった父親に門戸を開いていることが見えてきた。
 ヒューマニズム関連誌Filiatioが法改正10年を機に多くの分析をもとにさらなる分析をし、離別親が子との居住期間を交替で(ほぼ)対等(35%~半々)にするのが多くの離別両親とあらゆる年齢の子にとっても最善の方法だという結論を出した。向上が見られた項目として、元家族メンバー間の質と関係、子供の学校の成績、親が子に全力を注ぐこと(子への投資)がある。「固定概念に反し、離別両親の対立、子の年齢の小ささ、または違いの大きな教育システムは離別両親宅での子の対等居住制度において深刻な障害要因とはならない」と結論付けている。
 そして、は、離別前に子の世話をあまりしていなかった方の親(多くは父親)の子への力の注ぎ方に改善がみられる。カップルの間では、今でも家事や子の面倒をみるのが女性の役割なのである。ある父親が言う。「7歳の息子が1週間交替で親の家を行き来している。おかげで洗濯機の使い方、おやつを準備したら子に宿題をさせることを学んだ。離別してからやっと本当の父親になったよ。」
 さらに、子の対等居住制度を選ぶ方が両親が教育費の分割にもより良い影響を及ぼしている。子の各親宅の居住期間が片親のみ、または不平等だと、多く面倒をみる親(多くの場合母親)の貧困化・不安定化や、そうでない親の養育費負担減や停止などの問題が伴うことが頻繁になる。
 しかし、家庭内暴力や片親と子の仲が悪い場合は、子の離別親宅対等居住制度がいつも肯定的な効果をもたらすとは限らない。
 乳幼児の場合の境遇には議論がある。単に一定期間で住処を交替する生活では説明できない特別で一貫性のある欲求が乳幼児にはあり、交替生活では別れることへの不安や無表情、やる気喪失の元となり、感情発達に否定的な影響を及ぼす可能性を示唆する児童精神医もいる。
 Filiatio誌は、「子の離別両親宅対等居住の利益は二つに分断された生活の些細な厄介事を相殺する」と述べた最近の科学的調査に言及し、離別した両親と子のつながりを出来るだけ早く確立するのが子供のためにもなるとしている。


ベルギーと日本の相違点

・離別しても父母は変わらない

ベルギーの場合、両親が離別(結婚しない制度もあるので、離婚ではなく離別とします)し、その後親が別の人と同居したり結婚して日本で言う「養父・養母」ができても、子供は彼らのことを「パパ・ママ」とは呼びません。複数のこのようなケースの子供を知っていますが、実父・実母は「パパ・ママ」で、養父・養母のことは下の名前で呼んでいます。
 一方、日本の場合はどうでしょうか。私自身は、幼稚園の頃に父親が病死し、母は父の弟(=私の叔父)と再婚しました。母からは養父をお父さんと呼びなさいと言われました。より顕著な例として、船戸結愛ちゃん虐待死事件の新聞記事見出し(2019年10月13日「結愛ちゃん 父」で検索、検索総数約34500)をいくつか紹介します。
  • (朝日新聞)結愛ちゃん「いらだちが暴力に」 目黒虐待死の裁判
  • (FNN Prime)結愛ちゃん虐待死裁判「私が親になろうとしてごめんなさい」父親が涙ながらに語った後悔 
  • (時事通信)目黒女児虐待死の父親「怒り制御できず」=「手加減せず殴った ...
  • (文春オンライン)「結愛ちゃん虐待死事件」 による“凄惨な暴力”の証拠と転落人生
「結愛ちゃん 義父」でも検索したら検索総数約4580となり、テレビ朝日では見出しに「義父」とありました。英語の記事を複数見ましたが、stepfatherという表現でした。フランス語の記事は2つ見つけ、片方はpère adoptif(養子縁組をした父)と beau-père(義父・継父)を、もう一方は結愛ちゃんをbelle-fille(義理の娘、継娘)と表現して父親という表現は使いませんでした。
私と結愛ちゃんのケースでは、実母と再婚し同居している男性と実母が「パパ・ママ」であり、同居しない実父は「本当の」、「昔の」とか「死んだ」という形容詞をつけた「パパ」となる考え方です。
結愛ちゃん事件を報じるメディアの中には、見出しだけでなく本文でも被告のことを「父親」と書いている場合があります。
日本が離婚後の子供の共同親権の流れに進んでいくのであれば、実父と継父(実母と継母)の2人の存在を社会として認めていくことが大切になると考えます。

・子持ち離別はをしても、父母はコンタクトを頻繁に取り続けなければならない

ベルギーで共同親権というのは、そのカップルに子供が産まれたら、その子をどの託児所・保育園・学校に入れるか、習い事はどうするか、手続き関連、子が病気になった時に治療法に至るまで、子供の成長に必要な決定は、離別していようがいまいが両親が決定します。
 おかげで、回答が必要な学校からの通知などで、両親(2人)のサインを求めることがあります。
 親の家を子が対等に行き来することができるためには、離別した両親が比較的近くに住んでいる必要があります。子供の学校は隔週交替できませんし、少なくとも小学生までは親が子供の送迎をしなければならないからです。
 この点、私のように国際結婚していると、子供と少しでも長い間一緒にいたいならベルギーに住まなければならないということになります。海外から子を連れて勝手に帰国したら、ハーグ条約に引っ掛かります。それに片親が(子連れだろうが無かろうが)母国に帰国しても、ベルギーで離別した子の養育についてはベルギーの法律を守らないと厄介なことになります。
 

ベルギーと日本の共通点

・家事、育児の負担は女性が多い

欧米は女性の進出が日本より進んでいる言われますが、女性が家事・育児というステレオタイプは、いまだにベルギーでも残っていることを知ってほしいです。
男性がフルタイム、女性は時間の短い仕事を選ぶ人もいます。ベルギーの統計ではEUの中では比較的少ない方とは言え、男女間所得格差は2017年で6%あります日本は日経新聞によれば男性賃金の73%だそうです。
 日本で共同親権や子の対等居住制度が進展していくには、子供が同居している時に子供と一緒に過ごせるリズムを作り出す環境が働く男女に関係なく必要だということになります。「亭主元気で留守がいい」とか、女性も男性同様のキャリアを・・・男性も女性同様の家事を・・・よしとしていては共同親権はいつまでたっても実現はできません。

・子供の面倒を見ている方の親に貧困化・不安定化の問題がくる

子の監護法は、子の各親への滞在期間が半々でもいいよ、調整すれば半々じゃなくてもいいよというものです。もちろん居住地が子の通学圏内を超えてしまう事情となる親もいます。そのような場合は、隔週末と学校の長期休暇の半分といったように両親間で交渉することもよくあります。
 こういうときには、より多く子供と居住する親は、子の養育費Contribution parentaleを受け取ることになります。ありとあらゆる経費を洗い出して合意を得て支払われるのですが、子供の生活をぴっちりおカネで解決することは難しいですし、子供と接する期間の少ない親は養育費をたくさん取られたくないという気持ちも出てしまうのもわかる気がします。それに、子供の生活スタイルが変わったことによる養育費算出変更だって出てきます。
 子供にとって両親との関係がアンバランスだとしても継続するという点は長所なのかもしれませんが、経済的・精神的アンバランスが両親の間にも出てきます。そのしわ寄せは子供と過ごす時間の多い親へ。そして貧困や不満が膨れていくのです。


さいごに。国際結婚は覚悟して

ベルギーでは2007年からカップルが離別する際にどちらが無実(innocent)でどちらが悪い(coupable)という解釈はしなくなりました。つまり、不倫して慰謝料という概念はないです。暴力など一方が刑事犯罪をしたことを裁判で認められた時には裁判により親権を他方にのみ決めることもあります。
 慰謝料がすごいといってぱっとイメージするのがアメリカです。アマゾン経営者の離婚と慰謝料の記事を目にし、「実質的な慰謝料となる財産分与だけでなんと7兆円! 離婚の理由はベゾス氏の浮気のようだ。」とありました。でも、別の情報では、アメリカには慰謝料に匹敵する概念がないともあります。7兆円は浮気による慰謝料ではなく、離婚による財産分与のようですが、センセーショナルにしたかったのでしょう。記事は疑いを持って接する必要があることを痛感しました。
 不倫だ、アルコール中毒だからといって離婚しても、慰謝料はベルギーでは期待できないので、ベルギーで結婚生活するときは気をつけましょう。

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