ベルギー人のおなまえっ! (ひとり自由研究1:ベルギー人の苗字ランキング)

2019年7月19日、ベルギー統計局でベルギー人の名前ランキングに関する統計が発表されました。
久々のExcel関数の勉強も兼ねて、この統計を素材にしながらベルギーのお名前事情を何回かにわたって伝えたいと思います。

ベルギー人の苗字トップ10


ベルギー統計局の「Noms de famille : Peeters & Janssens(苗字:ペーテルス&ヤンセンス)」で2019年1月1日現在のベルギー人の2019年1月1日現在の苗字統計がアップロードされ、その概要記事が出ていました。ウィキペディアの○○さんという名字の有名人という項目も参照しながら、ベルギーの苗字トップ10ご紹介します。

引用元 https://statbel.fgov.be/fr/themes/population/noms-et-prenoms/noms-de-famille


1位 Peetersさん 31,467人

ペーテルスさんがベルギーで最も多い苗字です。英語のPetersさんに相当します。eをふたつ続けるスペルはオランダ語に特徴的です。また、最後のsという文字は、スカンジナビア系の苗字が-senで終わるのと同じような親子関係を示すようです。


2位 Janssensさん 28,972人

ヤンセンスさんは英語ならJohnsonさんだそうです。オランダ語の影響で「J」はヤ行の発音になります。

3位 Maesさん 24,829人

マースと読みます。アクセント記号のつかない"ae"というスペルは「アー」と発音するのが多いです。
ウィキペディアではフランス語圏のThomasに相当するそうで、隣国オランダではMaasというスペルの傾向があり、Maesはフランドル地域のスペルだそうです。
ベルギーではビールの名前としても有名です。ビールのウェブサイトはhttps://maes.be/fr ですが、最初に誕生日を日・月・年で入れて子供じゃないことを証明してからサイトにアクセスできます。

4位 Jacobsさん 19,337人

ベルギーのカウンタテナー歌手René Jacobsさんのウィキペディア日本語表記だと、ヤーコプスさんになっています。かなりオランダ語らしい表記ですが、ヤコブスさんというのもありだと思います。アメリカのファッションブランドのMarc Jacobsだとマーク・ジェイコブスと書かれますが、ジェイコブスは英語の読み方です。

5位 Mertensさん 18,089人

メルテンスさんです。オランダを含むゲルマン系の苗字で、フランス語だとMartin(マルタン)という名前に相当します。
日本の「さいとう」さんのように、斎藤、斉藤、齊藤、齋藤という書き方の違いがベルギーの苗字でもあります。ベルギーの統計ではスペルの違い(大文字・小文字、アクセント記号の有無)も別の名前として数えます。
そのため、Mertensさんと同じ系列の苗字として、第18位 Martens(マルテン)さん(10911人)、第218位 Maertens(メルテンス)さん(3502人)、第3802位 Meertens(メールテンス)さん(419人)がトップ10000にランクインされていました。


6位 Willemsさん 17,935人

ウィレムスさんです。1066年のノルマン・コンクェストを経てイギリスのノルマン朝初代国王となったウィリアム1世のWilliamに相当し、最後のsで家系を示す苗字になっていますね
ご存知の方も多いと思いますが、ウィリアム1世はフランスだとギヨーム(Guillaume)となります。
また、同じくイギリスの名誉革命によって国王としてウィリアム3世は妃のメアリー2世とともにオランダからイギリスに迎え入れられました。ウィリアム3世は、オランダ名だとウィレム(Willem)公と、同一人物でも英語とオランダ語でスペルが違います。

7位 Claesさん 15,947人

クラースさんです。同じ系列の苗字として第21位 Claeysさん(9983人)がランクイン。この2つの苗字を合わせれば3位に食い込むほどの多さです。フランス語だとNicolasさんに相当するのだそうです。フランス語のウィキペディアのhttps://fr.wikipedia.org/wiki/Claesを見ると、第7位のClaesさんだとベルギー人の有名人が多いのに対し、第21位Claeysさんはフランス人も半分くらい見かけます。Claesはベルギーっぽさが強いのかどうかどうかはよく分かりません。

8位 Goossensさん 15,412人

昔オランダ語を習った時の先生の苗字で、私の頭の中ではゴーセンス先生というイメージなのですが、日本語ウィキペディアでベルギーの有名人Goossensさんとして「レイ・グーセンス(Ray Goossen, 1924年 - 1998年)は、ベルギーのアニメ監督。レイ・グーセンと表記される場合もある。」と、グーセンスさんと書かれていました。
オランダ語の「g」はガ行で表しきれない悩ましい発音です。

9位 Woutersさん 15,191人

オランダ語系の苗字です。英語のWalterさん、フランス語のGauthierさんに相当します。最後のsはWouterさんの息子という家系を示す意味です。ウッターズ アンド ヘンドリックス(WOUTERS & HENDRIX)というベルギーのジュエリーブランドがあるそうなので、ウッターズさんとも言えますが、私の耳にはワウタースさんに聞こえます。オランダ語の発音をカタカナにするのはいつも難しいです。

10位 De Smetさん 13,638人

デスメットさん。語源は鍛冶屋(鍛冶職人)と、初めて職業が起源の苗字になります。日本なら鍛冶さんになりますね。これはオランダ語系の名前なので、最初のDeはフランス語のDe(英語のofに相当)とは意味が違います。
「鍛冶さん」という語源を共有する他言語の苗字として、英語Smithさん、ドイツ語Schmidtさん・Schmittさんだそうです。他に、フランス語はFèvreさん・Febvreさん・Lefébureさん・Lefeuvreさん・Le Fèvreさん・Lefèvreさん・Lefèbvreさん・Le Febvreさん・Lefebvreさん、ポーランド語Kowalskiさん、アラビア語Haddadさん、イタリア語Ferrariさん、スペイン語Ferrerさん、ポルトガル語Ferreiraさん、ゲール語Gowanさん・MacGowanさん・McGowanさんなど。「国際鍛冶さん大会」が開けてしまいますね。


この統計のわな


ベルギー人の苗字トップ10の名前を見て、何か気付きませんか?
みんなオランダ語を語源とする苗字になっています。
ベルギーはフランス語やドイツ語を話す人もいるのに、名前だけだとオランダ語系しか上位に出てきません。

この原因の一つに、ベルギーの人口構成があります。

ベルギーのほぼ中央を東西に分ける言語境界線があります。境界線の北がフランドル地域、南がワロン地域です。体で例えると、上半身がフランドル地域、つまりオランダ語圏、下半身がワロン地域で片側の横端にドイツ語圏があるもののほとんどがフランス語圏、そしておへそ付近にオランダ語とフランス語双方を公用語としたブリュッセル首都圏地域があります。
人口比でみると、フランドル地域:ワロン地域:ブリュッセル首都圏地域が6:3:1ということで、フランドルの人口が多く、そのためベルギー人の苗字トップ10にはオランダ語の苗字が多くなるというわけです。

言語境界線はゲルマン系とラテン系を分ける線でもあり、苗字ランキングは地域で大きな差があります。
次回以降は地域別の特徴を解説します。


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