ジェンダーギャップ指数2021 日本120位、ベルギー13位(ひとり自由研究)

最近、世界経済フォーラムが毎年発表 するジェンダーギャップ指数のランキングが発表され、日本は前年の121位から1つ上がった120位というニュースが出ています。

多くの分析記事は、先進国、G7、途上国の多い大陸、120位前後の国々と日本を比較し書かれていますが、ベルギーはこのような比較をすると日本の記事には出てきませんので、ここで日本とベルギーの比較を紹介してみます。

なお、参照したグローバルジェンダーギャップレポート(英語)は、https://www.weforum.org/reports/global-gender-gap-report-2021 にあります。


総合結果:日本120位、ベルギー13位。

グローバルジェンダーギャップレポートのランキングの中から日本とベルギーを引き出したのが下の表です。

 

総合

総合スコア変更

国名

順位

スコア

順位変化

2020

2006

ベルギー

13

0,789

14

+0,039

+0,081

日本

120

0,656

1

+0,003

+1,011


 ベルギーは13位、前年から14ランクアップし、スコアは前年からは0.039、2006年からは0.081上昇しました。

日本は120位、前年から1位アップし、スコアは前年からは0.003、2006年からは0.011上昇しました。

日本の総合スコアの上昇はベルギーの上昇よりも緩やかです。ジェンダーギャップを縮小しようという動き・成果が日本ではベルギーほど進んでいないことを示唆しているように見えます。

レポートにあるグラフを並べてみるとこうです。左がベルギー、右が日本、太字が各国の平均で、時計の12時方向が経済、3時が教育、6時が健康、9時が政治のスコア結果です。


ベルギーと日本を比較すると、経済と政治の分野で大きな違いがみられます。

経済 ベルギー59位、日本117位


 

経済参加機会

国名

順位

スコア

ベルギー

59

0.709

日本

117

0.604


レポートにある経済分野の詳細項目を並べました。いずれの対象もベルギーのほうがジェンダーギャップ指数が上位でした。


この数字のもう一つ先にある結果でベルギーと日本の違いが垣間見れます。例として、Legislator, senior officials and managers(管理職)とProfessional and technical workers(専門職・技術職)の詳細を下の画像にしました。


管理職の男女比について、ベルギーは80位と世界的にみたら真ん中くらいですが、それでも日本は管理職の女性比率が少ないということでしょう。

専門職・技術職については、ベルギーはスコアが最高点の1です。当然1位になります。手に職を持った男性・女性の数がほぼ同じということになります。私は、この理由の一つとして、教育の面で女子高・女子大学や短大など、男女間で学校選択の幅の違いがないことがあるのではとみています。

教育 ベルギー1位、日本92位

 

教育

国名

順位

スコア

ベルギー

1(26か国)

1.000

日本

92

0.983

ベルギーは、スコアが1で世界1位。でも、1位が26か国あります。四捨五入の理由なのか、スコアが1の国は合計37か国あります。

これは、指標の取り方にトリックがあります。4つの指標があるようで、ベルギーと日本は識字率(Literacy rate)と初等教育(Enrolment in primary education)は同じスコアです。違いは中等教育と高等教育によるものです。


経済と同じように、中等教育と高等教育について、もう一つ先にある結果を見てみましょう。


ベルギーは義務教育が中等教育まで、つまり日本でいう高校3年までで、その期間女子クラスとか男子のみの学校というのがないことが一因だと思います。日本の義務教育は中3までの9年間です。義務教育の後は、高校に通わない人、女子高、女子大、短大などの中等教育後期以降のジェンダーギャップがカウントされてしまうと考えられます。

高等教育については、さらに調べる必要がありそうです。ベルギーの高等教育のf/m(女性÷男性の数値)が1.31、つまり、高等教育へ進学するのは女性が多いのでスコアが1で順位が1位ということなのかもしれません。この推測が正しいかはベルギーの統計で高等教育機関の学生数をチェックする必要があります。それから、日本はf/mの値がないのに110位です。この部分だけ見るとなぜこの順位なのかという説明が見えません。

健康寿命 ベルギー98位、日本65位

 

健康寿命

国名

順位

スコア

ベルギー

98

0.968

日本

65

0.973

主な指標として、2つのみ挙げられています。Sex ratio at birth (出生時の性別比)とHealthy life expectancy (健康平均寿命年齢)です。日本がジェンダーギャップ指数が良いカテゴリです。

そのうち両国とも出生時の性別比は同じ数値で1位でした。違いは健康平均寿命年齢です。


日本の寿命については世界でも高いところに位置するのはよく聞くところです。やはり、両性とも平均寿命はベルギーよりも高いです。また、日本のほうが男女比でいえば男女間のギャップが女性が長生きという意味で大きくなるという結果から日本のランクがベルギーより上位だったという結果が導き出されたものと解釈できそうです。

今回は2か国のみの比較でとどめておきますが、このランキングの意味を理解するには、他の国とも比較するなど、深読みする必要があります。


政治 ベルギー16位、日本147位

 

政治

国名

順位

スコア

ベルギー

16

0.480

日本

147

0.061

ベルギーはスコアが0.48で世界16位。日本は0.061で147位と、かなりの差が開きました。このカテゴリは、日本でも多くのメディアや専門家が日本は下位にランクされていると指摘しているところです。ちなみに、ベルギーの前年の順位は34位、日本は144位です。


主な指標は3つ。Women in parliament (国会議員の女性比)、Women in ministerial positions (大臣クラスの女性比)、Years with female/male head of state (last 50) (ここ50年の元首の性別比年数)です。



大臣クラスの女性比について、2019年1月と2021年を比較して特に上昇した国としてベルギー(35%から57.1%)が挙げられるということが、このレポートの西ヨーロッパ地域の概説にも述べられていました。

この指数がいつの時点までの状況を反映させているのかわかりませんが、次のような状況からベルギーが政治分野でのジェンダーギャップ指数のスコアが急激に上がり、それが総合スコアを引き上げたと考えました。

初の女性首相

2019年にCharles Michel首相が欧州議会議長に就任となり首相職を辞め、同じ政党のSophie Wilmesが初めての女性首相が誕生したことが挙げられます。前年のグローバルジェンダーギャップレポートのここ50年の元首の性別比年数は女性ゼロでしたから、この影響は確実にあります。

私が2017年に受けた授業の教科書を見返すと、「憲法11条bisでは、(連邦政府)内閣及び言語・地域政府には性の違うメンバーから構成されると規定されているが、(2017年時点の)ミシェル内閣は、首相を除く閣僚14人中3人しか女性がいない」という表現でした。

ウィルメス首相が就任した後の閣僚名簿をみても、女性は増えてはいません。

最新の連邦政府の閣僚で男女比同等を達成

暫定政府がコロナ対策に追われる中、2020年10月、選挙から1年半近くたってAlexandre De Croo首相の連立政権が成立しました。彼の組閣によって、男女10名ずつとなる内閣が誕生、これがジェンダーギャップ指数の後押しになったと考えられます。

地方政府・言語共同体政府の位置づけ

ジェンダーギャップ指数の計算に影響しているのかよくわからないのがベルギーの連邦構成政府と言われる政府の大臣です。

連邦政府は日本でいえば中央政府と思ってくれるといいのですが、ベルギーには連邦構成政府というのがいくつもあり、憲法上連邦政府と連邦構成政府は対等な関係です。

連邦構成政府は、地方政府がワロンとフランドルとブリュッセル地域の3つ、言語はフランス語、オランダ語、ドイツ語の3つがあり、それぞれMinistre(大臣)という名称の役職があります。各政府とも憲法11条bisにある通り両性により大臣が構成されていて、ワロン政府は女性のほうが多いですが、男性が多い連邦構成政府のほうが多い状況です。


この結果でちょっと伝えたいこと。

比較している記事には気を付けよう。

ジェンダーギャップ指数の比較に関する記事は、日本語でいくつも見られますが、その中で「中東・アフリカ諸国レベル」「アフリカもしくは中央アメリカ諸国レベル」とか、先進国との比較とか、ランキングの比較対象相手を、はっきりしない国家間グループと比較する記事があります。こういう論調には気を付けましょう。

先進国とは、どこまでの範囲なのでしょうか。とある記事ではイタリアは先進国らしいのですが、その著者にとっての先進国の国の数が読者全員が想像する先進国の数と完全に一致しないと思います。ベルギーはG7メンバーでもないのですが、欧米とか先進国がどうだという記事の場合、ベルギーって入るのか悩ましいときがよくあります。

また、アフリカ大陸には50か国以上の国があり、ジェンダーギャップ指数の総合スコア上位10位に含まれる国々もあります。中東と言われる国は、サッカーのワールドカップだと、アラビア半島諸国はアジア予選から、エジプトはアフリカ予選を経ています。

「先進国と比べて」「○○諸国と比べて」なんて書いてある場合、その記事を書いた人の○○諸国のステレオタイプが含まれるので、注意しましょう。

ベルギーではそれほどニュースになっていない。男女格差を憂いている。

日本ではジェンダーギャップ指数の順位の記事を検索するとすぐに出ますが、同じようなキーワードでググってみたものの、ベルギーが13位というような記事は引っかかりませんでした。

グローバルジェンダーギャップレポート2021関連でGoogleのフランス語での検索で見つけたのは、フランス語圏の公共放送局RTBFの下の記事です。見出しの内容は、「世界経済フォーラムによれば"パンデミックが男女平等の進捗を後退させた"」です。この記事にはベルギーがどうだったという内容はありません。

La pandémie retarde les progrès vers l'égalité homme-femme d'une génération , selon le forum économique mondial (2021/03/31 06:13付)

https://www.rtbf.be/info/monde/detail_la-pandemie-retarde-les-progres-vers-l-egalite-homme-femme-d-une-generation-selon-le-forum-economique-mondial?id=10731396

逆に、この記事の途中に「男女平等:ベルギーはヨーロッパ内のランクで後退」という過去の記事へのリンクがあります。

Egalité entre femmes et hommes : la Belgique recule dans le classement européen (2020/10/29 13:26付)

https://www.rtbf.be/info/societe/detail_egalite-entre-femmes-et-hommes-la-belgique-recule-dans-le-classement-europeen?id=10620277

この記事は、欧州男女平等研究所の調査で、ベルギーは欧州内でランクを前年から1つ、2010年から4つ落とし9位になったというものです。企業の取締役での女性進出には改善が見られた点は肯定的です。ただし、AIやハイテクなどのデジタル化によって女性が受けるキャリアが男性より深刻になるリスクや、子を持つ女性の46%が働き方を子に合わせるのに対し男性は22%である、時短を選ぶ若い母親は24%で若い父親は6%、という男女格差を多く指摘する記事でした。

日本とベルギーを比べるだけで、じゃ、ベルギーでは男女格差が少なくて日本より幸せというわけではありません。ベルギーだって男女格差・男女の平等の問題を抱えているのは同じだということをお伝えしたいです。

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